退職金計算機(退職所得 手取り計算)
退職所得の優遇税制を適用して退職金の手取り額を算出。退職所得控除、1/2課税(例外含む)、 分離課税の所得税、住民税10%、申告書未提出時の20.42%源泉徴収まで対応。
退職金 手取り 計算ツール
仕組み
日本の退職金課税の仕組み(なぜ非常に優遇されているか)
日本の退職所得は、先進国の中でも最も優遇された個人所得課税の一つです。30年勤続の退職金3,000万円 でも税負担は約80万円程度に収まり、給与所得として通常の限界税率を適用した場合の800万円超と 比較すると桁違いに小さくなります。所得税法第30条に基づき、3つの優遇措置が 同時に適用されます:勤続年数に応じた控除、控除後金額に対する1/2課税、他の所得と合算しない 分離課税です。
1. 勤続年数の切り上げ
勤続年数は1年未満切り上げです。20年と1日でも21年として扱います。 日本の個人課税で最も「1日の差が大きい」ルール:年次の節目を1日でも超えて勤務すると、 20年超のゾーンでは70万円分の控除額追加に相当します。
2. 退職所得控除額
控除額は勤続年数に応じてスケールします:
- 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
- 勤続20年超: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20)
- 障害退職: 上記に100万円加算
計算例:勤続25年 → 800万円 + 70万円 × 5 = 1,150万円が課税前に控除されます。
3. 1/2課税(と2つの例外)
一般の退職金では、控除後の金額を半分にしてから税率を適用します:
課税退職所得金額 =(退職金 − 退職所得控除額)÷ 2
これが有名な1/2課税です。ただし令和4年(2022年)以降、2つの重要な例外があります:
- 特定役員退職手当(役員・勤続5年以下):役員(取締役・監査役・執行役など 会社法上の役員)が勤続5年以下で退職する場合、控除後金額の全額が1/2なしで課税対象。 短期間の役員就任を利用した節税回避を防ぐために導入されました。
- 短期退職手当(一般従業員・勤続5年以下、令和4年〜):一般従業員が勤続5年以下で 退職する場合、控除後金額のうち300万円までは1/2が適用されますが、300万円を超える部分は 全額課税対象になります。
4. 分離課税
課税退職所得金額には標準の所得税率(5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%)が適用されますが、 その年の他の所得(給与・賞与・キャピタルゲインなど)とは合算しません。 退職金を給与所得に積み上げて限界税率で課税する諸外国と比べて、極めて有利な仕組みです。 所得税には2.1%の復興特別所得税が加算されます。
5. 住民税:10%比例(均等割なし)
退職所得の住民税は10%比例(道府県民税4% + 市町村民税6%)で、所得税と同じ課税退職所得金額に 対して計算されます。均等割の付加もなく、退職金支払い時に会社が源泉徴収します。
6. 申告書未提出の落とし穴(20.42%)
ここが最大の注意点:上記の優遇税制が適用されるのは、退職金支払い時に「退職所得の受給に関する 申告書」を会社へ提出している場合のみです。申告書未提出の場合、会社は退職金の額面に対して 20.42%を一律源泉徴収しなければなりません(控除も1/2もなし)。翌年の確定申告で 還付請求は可能ですが、退職時のキャッシュフロー差は通常数百万円規模になります。必ず提出しましょう。 本ツールでは比較表を表示します。
7. 計算例
勤続30年・退職金2,500万円・障害退職なし・役員でない・申告書提出あり:
- 控除額:800万円 + 70万円 × 10 = 1,500万円
- 控除超過:2,500万円 − 1,500万円 = 1,000万円
- 課税退職所得金額:1,000万円 ÷ 2 = 500万円
- 所得税:500万円 × 20% − 42.75万円 = 57.25万円 → × 1.021 = 約584,520円
- 住民税:500万円 × 10% = 500,000円
- 税額合計:約1,084,520円 → 手取り 約23,915,480円(額面の95.7%)
申告書未提出の場合(20.42%一律):2,500万円 × 20.42% = 5,105,000円源泉徴収 → 手取り 19,895,000円。申告書提出により退職時点で約400万円分のキャッシュフローを確保できます。
用語
主要な用語と概念
退職所得
所得税法第30条に基づく独立した所得区分。「(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2」を分離課税で課税します。他の所得と合算しないため、給与所得と比べて税負担が大幅に軽減されます。
退職所得控除額
勤続年数に応じた控除。20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)。20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20)。障害退職は + 100万円。勤続年数は1年未満切り上げ。
退職所得の受給に関する申告書
退職金受領時に会社へ提出する書類。提出することで分離課税の優遇税制が適用されます。未提出の場合は会社が額面の20.42%を一律源泉徴収します。
特定役員退職手当(役員5年以下、1/2なし)
役員(会社法上の取締役・監査役・執行役)かつ勤続5年以下の退職金は、控除後金額の全額が1/2なしで課税対象。短期間の役員就任を利用した節税回避防止のため導入されました。
短期退職手当(一般従業員5年以下、部分的1/2)
令和4年(2022年)施行。一般従業員かつ勤続5年以下の退職金は、控除後金額のうち300万円までは1/2が適用されますが、300万円を超える部分は全額課税対象になります。
分離課税
他の所得と合算せず単独で税額計算する方式。退職所得は分離課税のため、退職した年の給与・賞与・株式譲渡益などとは別個に税率が適用されます。これにより退職金が限界税率で激しく課税されることを防ぎます。
復興特別所得税
所得税額に対して2.1%が加算される付加税。2013年〜2037年まで適用。東日本大震災の復興財源として導入されました。退職所得の所得税にも通常の所得税と同様に適用されます。
よくある質問
退職金に関するよくある質問
退職金は法律で支払い義務があるのか?
いいえ。退職金は法定の義務ではありません。ただし、中堅以上の企業のほとんどは就業規則に退職金規程を設けており、一度規程を設ければ既存従業員に対して契約上の権利として強制力があります。一旦支給制度を設けた後で一方的に廃止することは法的リスクが大きいです。
典型的な支給率は?
一般的な計算式:基本給 × 勤続年数 × 支給率係数。係数は事由により異なり、自己都合は勤続初期で0.5〜0.8、長期勤続で1.0〜1.5程度。会社都合は自己都合の1.5〜2.5倍が多い。障害退職・死亡退職は会社都合と同等以上。具体的には就業規則による。
中退共の一時金はどう扱うか?
中退共(中小企業退職金共済)の一時金は退職所得として同じ優遇税制で課税されます。同年に会社の退職金と中退共一時金の両方を受け取る場合、所得税法上の通算ルールにより、退職所得控除額は最も長い勤続期間を基準に計算され、控除の二重利用は防止されます。
iDeCo・企業型DCの一時金は?
iDeCoや企業型DCからの一時金受給も退職所得です。重要:DC一時金を先に受け取り後で退職金を受ける場合は5年ルール、退職金を先に受け取り後でDC一時金を受ける場合は19年ルールがあり、控除額が制限される場合があります。国民年金基金の一時金にも同様のルール。受給順序の計画で数百万円の差が出ることも。
退職金規程がなくても支給できる?
はい。退職功労金などの裁量的な支給も可能です。退職に明確に紐づき通常賃金ではないことが明らかであれば、退職所得として優遇税制の対象になります。取締役会議事録や書面など、根拠書類の整備が重要。
従業員が退職金受給前に死亡した場合は?
死亡後3年以内に遺族に支払う死亡退職金は、相続税の対象(退職所得ではなく相続財産)となります。法定相続人数 × 500万円の非課税枠が別途適用されます。3年経過後は遺族の通常所得として扱われます。
退職金を分割(年金型)で支給できる?
はい。年金型(退職年金)で支給する場合は雑所得(公的年金等)として扱われ、退職所得控除や1/2課税の優遇は適用されません。多くの従業員は税負担の差から一時金型を選びますが、会社のキャッシュフロー上は年金型の方が有利な場合もあります。
解決金との違いは?
労働紛争の和解金(解決金)は、退職に伴う雇用喪失の補償と明確に位置付けられれば退職所得になりますが、給与所得や一時所得として扱われる場合もあります。判定は構造と書類により異なるため、合意前に税理士と税務上の取扱いを確認することが望ましいです。
免責事項。 本ツールは所得税法第30条に基づく退職所得の分離課税制度を実装したもので、 令和7年度ベースラインの税率を使用しています。同年複数受給、DC一時金との5年/19年ルール、死亡退職金、 解決金、外国税額控除との関係などのエッジケースは個別判断が必要です。 具体的な判断は税理士または社会保険労務士にご相談ください。